映画化が楽しみな『ケンスケの王国』(マイケル・モーパーゴ 作、佐藤見果夢 訳)

[著者]マイケル・モーパーゴ

[訳者]佐藤見果夢

[テーマ]冒険、成長、異文化との出会い

 

 マイケル・モーパーゴは特に戦争をテーマとした作品に定評があるイギリス人の児童文学作家。モーパーゴの作品は何冊も読んだのに、名作と名高いこちらは今まで手に取ったことがありませんでした。2019年に、『戦火の馬』に続き映画化が決定したとのニュースを知り、読んでみることに。

ケンスケの王国 (児童図書館・文学の部屋)
 

 物語の主人公はマイケルという男の子で、もうすぐ十二歳。時は一九八八年です。ちなみに、大人になったマイケルが過去を振り返るという形がとられています。「十年は黙っている約束だったけれど、すでに十年が過ぎたから」という最初のページからストーリーに惹きつけられます。

 マイケルは、母さん、父さん、マイケル、ステラ・アルトワ(犬)の四人家族。「父さん」より「母さん」が先にくることからも見てとれるように、どちらかというと母さんが中心的な存在の一家です。何かを決めるのは必ず母さん。幸せに過ごしていたのですが、ある日父さんと母さんが働いていたレンガ工場が閉鎖されることになり、二人は職を失います。失意のどん底にいた父さんですが、ある日ヨットを購入して、これで世界一周してみようと言い出します。

 母さんも乗り気で、航海士の資格をとり、船長になる気まんまん。ぼくとステラ・アルトワもウキウキしながらヨットに乗り込み、イギリスを出てスペイン、アフリカ、ブラジル、オーストラリアとさまざまな国を旅します。

 この旅の描写が本当にすてき! わたしはもう大人ですが、子どもの頃読んでいたら、それはそれはワクワクしただろうなと感じました。ヨットのそばをイルカの群れが通ったり、初めて訪れる国の海岸でサッカーを楽しんだり。

 そして、オーストラリア近海を進んでいたある日のこと。マイケルとステラは夜間にヨットから落ちてしまいます。もうだめだ、と思うのですが奇跡的に助かり、無人島に打ち上げられます。無人島にはオランウータンやテナガザルがいて、ジャングルが広がっています。しかし、実は人間も一人だけ住んでいることがわかるのです。それがケンスケ。おじいさんで、日本人のようですが、ずっとこの島で暮らしている風なのです。

 横井正一さんや小野田寛郎さんといった実在の人物のニュースをもとに、「今度は無人島の男の子の話を書いてほしい」というファンの男の子の手紙から着想を得て作られたお話ということです(訳者あとがきより)。

 戦争は直接登場しないものの、多くの人の心に残った傷が浮き彫りになり、その罪深さについて考えさせられます。

 映画は実写ではなくアニメだということです。実写では難しそうな描写もたくさんあるし、色鮮やかな無人島の自然はアニメの方が映えそうなので、それが正解かも。ケンスケの声は渡辺謙さん。堂々としていて感情によって七色に変化するような、舞台映えする声(容姿もですが)ですから、とても楽しみです。