賢女ひきいる魔法の旅は(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 作、田中薫子 訳、佐竹美穂 絵)

 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ、実は子どもの頃にはそんなに読んだことがありません。ちょうどファンタジーをあまり読まなくなって、大人向けの小説ばかり読むようになった頃に色々と翻訳されていたんだと思います。そんなわけで、大人になってから読んだファンタジーでした。

 トールキンに師事していたということもあって、その面白さは別格。魅力的な登場人物、息もつかせぬ展開、最後のどんでん返しと、夢中になって読んでしまう作品ばかりです。『ハウル』はもちろん、魔法が出てくるお話ばかりで、思わず時間を忘れて読書に没頭してしまいます。

 この作品は、本当にすごく久しぶりに、本から顔を上げたとき自分がだれで、どこにいるのかわからないような感覚に陥りました。そのくらい面白かったのです。

 物語はこんなふう。

 北の島、スカアで賢女(原書ではWise Womenとなっています)として讃えられているベック叔母さんと暮らしている十二歳のエイリーン。本人も賢女になるための儀式を行うのだけれど、見事に失敗してしまい、落ち込んでいました。そこへスカアの大王からの使いがやってきて、十年前に東の島ログラの民にさらわれた大王の息子(皇子)を救出するたびに出ろとベック叔母さんとエイリーンに命令します。西の島バーニカ、南の島ガリスをめぐるうちに仲間は増え、皆でログラを目指すのですが……。

 でも、最初からおかしなことばかり。スカアの大王がベック叔母さんに旅の費用に使えと差し出したお財布には実は小石が詰まっているだけだったし、どうも大王はエイリーンたちに「生きて戻ってきてほしくないみたい」。いったい何が起こっているんだろう?

 

 落ちこぼれ(ではないんだけど、本人はそう思い込んでる)賢女のエイリーンが、度のパーティーを率いて大奮闘するお話。

 魔女じゃなくて賢女というのもすてきですよね! 予測もつかない展開で、最後まで読ませます。

 大人になってから読むと面白いのは、このお話自体が英国をモデルにしているんじゃないかと思われること。 たとえば、緑が美しいというバーニカはアイルランドがモデルになっているようで、登場する鳥の名前も「ミドリドリ」だったり、フィネン人とクーロッキーの人たちが何年にもわたって戦っていたりと(カトリックプロテスタントの戦い、いや、北アイルランドとを思わせる)、現実世界で起こったこと・起こっていることを思わせる描写。「英国へのラブレター」だと感想を綴っている読者もいて、なるほどと思いました。

 そして表紙のイラストにも見惚れてしまいます。色んな人が色んな表情をしていて、何が起こってるの?と好奇心がむくむく。読み進むにつれて、「これはこの人か、こういう事情でこういう顔してるのか」とわかるようになるのがまた楽しい。

 ダイアナ・ウィン・ジョーンズが「佐竹美穂さんの絵が(世界中のジョーンズの作品の装丁の中で)一番好き」とコメントしていたようですが、読者としてもそれがよくわかります。