アドリア海の奇跡(ジョアン・マヌエル・ジズベルト 作、宇野和美 訳、アルフォンソ・ルアーノ 絵)

 時間を忘れてしまうようなファンタジーです。作者はスペイン(バルセロナ)の方。

アドリア海の奇跡

アドリア海の奇跡

 

 ある日、ヨーロッパ一とうたわれる錬金術師ケレメンが修道院にやってきます。頼み事があるというのです。その頼み事とは、三つの箱をアドリア海まで運ぶこと。ただし、決して中身は見ないこと。ちょっと舌切りすずめの「つづら」とか浦島太郎みたいですね。

 院長は困惑しますが、そのうちに修道院で預かっている身寄りのない男の子、マティアスにこの役目を果たしてもらうことにします。さぞ困ってしまい、おどおどするだろうと思いきや、マティアスは堂々とした態度を取り、二つ返事で承諾するのです。

 このときのマティアスの心情はのちのち明らかになります。どれほど孤独を抱えていて、自分がこれからどうすればいいのかちっともわからないと思っていたかが、語られるのです。そして、秘密にしている生い立ちについても。修道院でも居場所がないと思っていたマティアスにとって、この任務は絶好のチャンスでした。

 ケレメンにも、そして道中を邪魔しようとするさまざまな人々にも、それぞれ思惑があります。色々な人の思いや欲望がうずまき、結末まで突き進んでいきます。

 マティアスと一緒にハラハラしたりドキドキしたり、不思議な光景に息を呑んだり。人生を変えてしまう冒険を目撃する楽しさは格別です。