ページを繰る手が止まらなくなる『ゴーストドラム』(スーザン・プライス 作、金原瑞人 訳)
こちら、同じタイトルで1990年代に福武書店から発売されていたのですが、2017年にクラウドソーシング式の出版社サウザンブックスから改めて出版となった一冊です。
しかも、こちらは三部作の一作目なのですが、ありがたいことに三冊すべてが出版されました。続きが読みたいなあと思っていた元子ども・今大人もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
とにかく文章が美しくて、冒頭から物語の世界に引き込まれます。冬に読むのにぴったりかもしれません。寒い寒い、読んでいるだけで鼻の先が冷たくなってくるような、北欧をインスピレーション源とした世界のお話ですから。
不思議な猫が語るというていで始まる物語、主人公は女の子です。奴隷の子として生まれながら赤ちゃんのときに魔女に引き取られ、魔女として育てられたチンギスという少女です。二人はスラヴ民話のバーバヤーガをモチーフとしている、にわとりの足が生えた家で暮らし、チンギスは魔法を学びます。
やがて成長したチンギスは、育ての親である魔女との別れを経て、城に閉じ込められた王子サファを助けることになります。
そこへ、悪い魔法使いのクズマが邪魔をしにやってきて……。
という、いわゆる眠れる森の美女の性別を反対にして、残酷な要素をこれでもかと詰め込んだようなお話です。でも、とっても美しいのです。
おとぎ話とは比べ物にならないくらいの美しさです。
城の塔に閉じ込められたサファの息が詰まるような生活、おぞましい空間。
ネット廃人のようにこっそりチンギスの動向をチェックして、邪魔してやろうと企んでいるクズマ。
容赦なく、突然やってくる児童文学らしからぬいくつもの死。
でもすべてが、すばらしい筆致で描かれていて、美しいと感じます。
遠い遠い国を描いたファンタジーのようでいて、現代社会にぴったり合うような描写もいくつもあります。