弟の戦争(ロバート・ウェストール 作、原田勝 訳)

 湾岸戦争が起こっていたとき、わたしは幼稚園か小学校に通っていました。まだ小さい子どもで、戦争の意味もよくわからなかったと記憶しています。ある日、突然テレビやラジオのニュースで、クウェートイラクの様子が報道されるようになり、両親とバスに乗っているときに車内のニュース掲示板みたいなもので「湾岸戦争が〜」と目にする(というよりも、漢字も読めないので両親が話しているのを聞いていたのだと思いますが)ようになりました。

 テレビを通してでも、爆撃の音は恐ろしく、怖いと感じたことを覚えています。そんな湾岸戦争を題材にした作品です。  

弟の戦争

弟の戦争

 

 小学校六年生の教科書にものっているのですね!

 主人公「ぼく」の弟のフィギスは、不思議な男の子です。まるで動物や人間の心が読めるみたい。怪我をした動物や、苦痛を訴える難民の子どもの写真を見たりすると、何日も落ち込んでしまいます。そして、気持ちがよくわかると言わんばかりに、動物や子どもが感じていることを訴えてくるのです。

 今読むと、HSP(Highly Sensitive Person)みたいな感じかな?と思うのですが、ここから驚きの展開に。なんと、フィギスは突然不思議な言葉で寝言を言い出すのです。英語ではなく、アラビア語のような……。そして突然、「ぼくはイラクの少年兵だ」と主張し始めたのでした。

 「ぼく」はフィギスのことを心配するのはもちろん、遠い遠い国であるはずのイラクに思いを馳せるようになります。同年代の少年がイラクにもいて、学校に通ったりなんかせずに戦争に参加している。まったく違う人生です。

 このようなプロットを用いて戦争を読者の目の前に提示する、ウェストールは凄腕の作家だと改めて思います。