『戦火の馬』(マイケル・モーパーゴ 作、佐藤見果夢 訳)を読み返す

[著者]マイケル・モーパーゴ

[訳者]佐藤見果夢

[テーマ]戦争、人と動物の交流

 

 モーパーゴの作品を読んでいたら『戦火の馬』が読み返したくなりました。

戦火の馬

戦火の馬

 

 2011年(日本公開は2012年)には、スティーブン・スピルバーグ監督によって映画化もされた作品です。スピルバーグ監督は演劇作品となった本作の舞台を観て、映画化したくなったのだとか。

戦火の馬 (字幕版)

戦火の馬 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 まず、主人公が馬。イギリスの農場で、アルバートという名の男の子に大事に大事に育てられた、美しい馬です。名前はジョーイ。ちょっと聞かん気で頑固なところがあるのだけれど、男の子はその性質も慈しみ、いつも話しかけて、兄弟のように育ちます。

 ところが、第一次世界大戦の足音が聞こえ始めていました。ある日、農場の運営に苦しむ男の子のお父さんは、ジョーイを軍隊に売ってしまいます。

 そのことを知ったアルバートはジョーイがいる場所まで追いかけていき、「ぼくを軍隊に入れて、ジョーイの世話をできるようにして」とその場にいた大尉にお願いするのですが、年齢的にアルバートが軍隊に入隊できるのは後数年してから。アルバートは泣く泣く、「必ずお前を探しに行くから」とジョーイに別れを告げます。

 ジョーイは優しいニコルズ大尉などとともにフランスへ渡り、戦争を経験します。人はもちろん、盟友となる馬との出会いもあり、フランスの農場で束の間の休息を味わったりもするのですが、戦争は長引き、兵士らは疲れ果て、いつしか招集される兵士の年齢もどんどん下がり……。

 戦争を描いた他の作品と一線を画しているのが、この「馬が主人公」という点。

 翻訳者の佐藤見果夢さんは、一人称の訳に大変悩んだと次のウェブサイトでお話していらっしゃいます。悩みに悩んで、「私」としたとのこと。立派に成長し、戦争下で歳を重ねていくジョーイが過去を振り返る物語。馬という賢く、どこか気品のある動物に「私」という一人称がぴったりだと、読者としても思います。すごく自然で、馬が主人公であるということへの違和感がまったくありません。

www.kodomo.gr.jp

 馬って、ヨーロッパやアメリカでは(田舎の方では)本当にたくさんいるから、子どもとのふれあいも多いのですね。馬が出てくる児童文学ってたくさんありますが、身近な存在なのだと思います。日本だと猫や犬くらいかなあ。

 『戦火の馬』ではイギリスがドイツと戦っていますが、どちらがいい、悪いという描き方はされません。ジョーイはドイツ軍の馬にもなるのですが、イギリス人もドイツ人も、一般の人は戦争などしたくはないのです。

 一時休戦中にドイツ兵とウェールズ兵がジョーイについて交わす会話がとても印象的です。